とんねる

 

出口はまだなのか、という苛立ちが募り、ハンドルを指でコツコツと叩く。

 

ライトも調子が悪いのか、照射距離は短く見通しが悪い。直進し始めてからどれくらいの時間が経ったのだろう。道はカーブを描くこともなく、見えない目的地までひたすら真っ直ぐに伸びているようだった。

対向車は通らないが、道路の脇に停まっている車を数台見かけた。暗闇の中でガソリンが切れてしまったのか、それともハンドルを握り続けることに疲れてしまったのか。

彼らが再び走り始めることはあるのだろうか。今、車を停めれば少なくとも彼らと共に来た道を戻ることは出来るだろう。暗闇の中を一人走り続ける恐怖からは逃れられる。

 

本当にこの道でよいのだろうか。直線にも関わらず、道に迷うような奇妙な感覚が去来する。そもそも方角が間違っていたら、と。

 

さまざまな思いが雨となってフロントガラスに降り注ぎ、視界を曇らせる。

閉ざされた暗闇の中でも、不安という雨だけは入り口と出口以外の場所から侵入することを許されるらしい。

もしこの先が行き止まりならば、正面衝突で大破することは確実だ。

 

 

ドライバーは束の間考え、決意する。

 

 

 

 

 

 

 

音楽をかけよう。

特別激しく五月蠅く狂ったようなナンバーを。

 

車の中に響き渡る轟音が車体に呼応し、エンジンを唸らせる。

爆音とともに伝えられるメッセージがこのドライブの意味を思い出させる。

ドライバーはアクセルを強く踏み込む。

 

車体があまりにも速く動くので、雨を置き去りにして行く。

ワイパーは必要ない。

 

轟轟とサウンドが響き渡る車内とは対照的に、車の外はとても静からしいことがわかる。

 

 

とても静かな疾走。エンジン音もなく、タイヤと地面の摩擦音も、風を切る感覚さえない。あるのは進んでいるという事実と車内に響く音楽のみ。

 

故に誰も知らない。車が進む先を。何故進んでいるのかを。そして進んでいる事実さえも。